つい最近、こういうことがありました。
あまり同業者のことを悪く書くのは趣味ではないですが、今回、あまりにもひどい事例があったため、今後、同様の被害が生じないようにするために、内容をダイジェストして記事にすることにしました。1 相談者Aは、大都市の、多重債務専門と銘打つ法律事務所(仮名:X)に依頼をしたという人。
2 電話で相談。事務員が対応。
3 その場では、詳細な事情について聴取されることもなく、形式的に債務額と債権者数だけを聞かれて、破産・個人再生・任意整理という方法がある、とだけ、事務員から提案される。
4 Aは当然その違いについては詳しく知らないし説明も受けていない。残ローンのある自動車が引き上げられると困る、という話をすると、その点を理由に、毎月収入の概ね半分を支払う形での任意整理をすることを提案される。
5 事務員から、「急ぐ必要がある、そうしないと差押を受ける」、とまで言われる(実際にはそんな局面ではなかった。が、Aはこれにかなり焦りを覚えたようである)
6 A、4に記載のとおりの任意整理を方針とする委任契約をX法律事務所と締結。
7 弁護士会の基準を大幅に超える着手金額が請求される。
8 その後、Aが疑問を感じる。
→当職が介入。
9 AからX法律事務所に電話してもらう(当職の面前で、携帯電話から)。
すると、男性が出てきて、X事務所の代表弁護士を名乗る。そこで、なぜこの方針なのかとAが尋ねると詳細な説明を始めた。
10 ところが、Aがその男性に改めて氏名を確認すると、弁護士ではなく事務員だという。
11 A、Xへの依頼を取りやめる意思を仄めかす。着手金の返還を求む。
12 なお、ここまで弁護士はまったくでてきていない。つまり、任意整理という方針決定にすら、弁護士が関わっていない。問題なのは、以下の点です。
①3、4、5、9、12・・・弁護士資格のない事務員が、実質的に方針決定を行っている(病院で言えば、受付の人が治療行為をするようなもの)
これは、明確な弁護士法違反です。
②2、6・・・弁護士と直接面談をしないまま、多重債務事件を受任。
これは、日弁連が定める、債務整理事件処理の規律を定める規程に定められた面談義務に違反する行為です。
弁護士が面談しないまま受任すると、結局、こうやって、事務員に任せきりになり、弁護士がちゃんとかかわらず、ずさんな処理につながりやすいからです。
③4・・・方針がおかしい。
人には、病気や事故、あるいは家族の問題など、様々な問題が起きることがあり、突発的な出費が発生することもあります。
また、生活しなければなりません。
一方で、借金返済のためだけに収入が大きく減るようだと、普通の人は、心が折れてしまい、下手をすると勤労意欲や生きる意欲すら失うひとが後を絶ちません(経験則上)。
そうだとすると、債務弁済のための原資は、収入の概ね3割以下にとどめるのが理想的です。あくまで理想ですが。
しかしながら、標記の案件においては、収入の約半額が弁済原資に充てられてしまいます。
Aの話を綿密詳細にきいていれば、ちゃんとした弁護士であれば、そのような余裕のない任意整理の方針など取らないと思われます。

結局、弁護士がきちんと面談しないから、Aの事情において必要な事項を聞き取れず、そのようなおかしな方針を立てるのでしょう。
いってみれば、手術が相当な患者に、学術的な根拠のない民間療法を施しているようなものです。

面談義務を全く果たさないこのXのような事務所など珍しいような気もしますが、こういう事務所もあるのだということをお伝えしたいことと、もし仮にそういう事務所を見つけた場合、上記のような問題があり、まずまともな処理がなされない蓋然性が高いことについては、注意しておいた方がよいでしょう。

なお、これと類似の問題として、このような事務所も横行しています(一時期より減ったような気もしますが)
(1)大都市から九州(というより地方全体でしょう)各地に、「多重債務専門事務所」と称する法律事務所が、公民館なんかで「法律相談会」というのを開く。
(2)そこで、形だけ面談をする。
(3)たいてい、任意整理で済ませる。
(4)しかし、面談が形だけのせいか、任意整理に適さない事案まで任意整理という方針を立て、かつ、処理方針を相談者にほとんど説明しないまま、あとは相談者が法律事務所に電話しても、弁護士が出ず、事務員が対応してオシマイ。
(以前、鹿児島の市電で、鹿児島県内をくまなく回る東京の法律事務所の「法律相談会」の広告が張り出されていました。東京に弁護士がいなくていいのかな?と思いながら、集客を重視しているのでしょうね)

これだと、上記の面談義務には、確かに違反しません。
しかし、面談義務の趣旨は、必要な事項をきちんと聞き取らないと相談者から必要な事項が聞き取れずおかしな方針を立てられるおそれがあるのでそれを防止することにあるわけですが、この観点からは、形だけの面談をしても必要な事項が聞き取れずおかしな方針を立てられる危険はかわりません。
実際、そういうことで、「依頼したがなにやっているかよくわからないし返済も厳しい。法律事務所に電話しても弁護士が出ない」という苦情は、しばしば聞くところです。

したがって、今日お伝えしたいことは
「面談をしないで委任契約する事務所は、確実に地雷。」
「大都市からわざわざ地方の公民館とか貸会議室を借りて行脚する法律事務所は、ほぼ確実に地雷。(大都市で仕事があればわざわざ地方に出張る必要がない)」
ということで、弁護士にご依頼される方は、十分お気を付けいただきたいと思います。
正直、こういう事務所は、依頼者を食い物にしているようにしか見えず、許しがたいと感じます。

※上記X法律事務所に対しては、既に支払われた着手金の返還を求め返金を受けました。
着手金は確かに「結果の如何を問わずお返ししないお金」なのですが、この事案では弁護士が事件処理に時間をとっていないと言ってよいので、返還されるべき場面だろうと思い返還請求をしました。