先日のこのブログの記事「弁護士が経営上注意すべき弁護士の「自由競争」にまつわる2つの問題」(URL:http://www.mk-law.jp/blog/319/)において、

「日弁連・弁護士会と、旧国鉄・JR北海道は酷似している」

と書きました。

おりしも、JR北海道の「JR北海道、維持困難路線「13区間」 18日にも正式発表」という記事が発表されたところですが、JR北海道のこれまでの「無理」がここにきて一挙に噴出した感じがします。

そもそも、旧国鉄は、労使問題もあいまって経営が破綻し、最終的に、分割・民営化されてなくなりました。
JR北海道は、恒常的な赤字(営業利益ベース)体質で、メンテナンス費用の低減や人材育成の空白により故障・不具合・ヒューマンエラー続出により運行形態の大幅見直し(スピードダウン、減便等)を余儀なくされ、利用客からの信頼を失いつつあります。近時の報道(本年9/16付北海道新聞)では、2018年度末には資金不足により事実上の経営破綻状態になると試算していた、との報道までされました。

このような旧国鉄・JR北海道と、日弁連・弁護士会は、何が共通しているのか。
それを考えてみました。
なお、以下は、あくまでも、「共通」といっても、抽象的に符合していることをテーマにするものにすぎないので、財務諸表等を参照してのものではないことを予めお断りしておきます。

1 設備投資の過剰

(1) 旧国鉄…「首都圏五方面作戦」として、通勤地獄解消のための建設工事に多大な工費を投じました。また、東海道新幹線にも多大な工費を投じました。
(2) JR北海道…さしたる設備投資をしているような感じはしないのですが(主要駅の高架化などはありますが、これは大半が道路予算)、新車に費用をかけすぎた(JR北海道の車両は構造が複雑なものが多い)・車両の種類が多岐にわたりすぎてメインテナンスコストがかかりすぎたといったところでしょうか。
(3) これらに対し日弁連・弁護士会
野放図に人数を増やしすぎました。食わせるには、業界全体のグロスの売上を上げなくてはならないところ、下記4の状況に陥っています。
また、各地に設置されているゴージャスな弁護士会館。すべて弁護士が払う会費で立てられています。
さらに深刻なのは、法科大学院制度。「弁護士になる」ために、それまでは必要なかった、法曹になるまでに多大なコストをかけさせる政策を、反対するどころか、むしろ推奨してきました。こうした養成コストはいわば「設備投資」なので、本来なら、そうした教育に投じた「投資」を回収する必要があります。

2 赤字部門を抱え込んでいること

(1) 旧国鉄・JR北海道…いわずもがなです。「公益」と言われて赤字ローカル線はにっちもさっちもいかず。
(2) これに対して日弁連・弁護士会…「公益」と称して、収益性のない事業が多数行われています。私はそのすべてを否定するつもりはありませんが、「日弁連・弁護士会がやらなければどうしようもないこと」かどうかという選別はできると思いますが、どういうわけか日弁連は「ちょっと困っている人がいるようだから我々のお金でなんとかしよう」という発想になりがちなようです。
その篤志たるや褒められてしかるべきですが、残念ながら社会からの評価はほとんどされておらず(弁護士からしても何やってるか見えない)、捨て金に近いことが多いようです。

3 協力が得られない、利用されるだけ

(1) 旧国鉄・JR北海道…赤字ローカル線は「公益」のために必要だ、と言われ、赤字を自らが負担する形で地域に奉仕。
しかし、地域が利用してくれるかというと、さにあらず、ただ「あったほうが良いよね」程度の見識で、赤字垂れ流しを事業者側に事実上強制。
(2) これに対して日弁連・弁護士会…「地域のために」と称して「公益」活動をしているが、本来であれば福祉に属する事柄につき、地域は金銭的に協力することがほとんどなく、日弁連・弁護士会の費用で行っている、つまり地域が本当にそれらの事業を望んでいるとはいえない(弁護士過疎地対策がその典型例)。「地域のために」が思い込みに過ぎないまま、ともすればうまく利用されているだけ。
旧国鉄等との違いがあるとすれば、日弁連・弁護士会は、「自ら火中の栗を拾っている」という点です。旧国鉄は、国策で作られた路線の運営を押し付けられたという点で気の毒さがありますが、日弁連・弁護士会は、任意で「火中の栗を拾わない」選択肢があったにもかかわらず、たいした戦略や見通しもないまま、わざわざ無闇に拾っているからです。

4 客単価を上げることが許されなかったこと

(1) 旧国鉄…国鉄運賃法という法律があり、国鉄運賃は国会での決議事項でした。国会はこのネタではよく紛糾していたそうで、値上げすべき時(上記1 設備投資過剰のとき)に値上げが出来なかったということで、経営上の痛手を被ったということのようです。
(2) JR北海道…高速道路や空港といった競合する交通インフラの整備という外部敵脅威が、定見なき交通政策に基づいてむやみに作り出され、これら他の交通機関との競合が激化し、価格競争圧力を強いられたといえると思います。
(3) 日弁連・弁護士会…弁護士会の標準報酬規程(旧規定)が独禁法違反の疑いありということでなくなり、一方で、税金注入によってそれより相当に安価な「法テラス」価格が登場。
しかも、日弁連・弁護士会は、職務基本規程その他でその利用を推奨したりすることで、「わざわざ客単価を下げる努力」をしてきました。

このように、旧国鉄・JR北海道と、日弁連・弁護士会はその構造が酷似しています。ただし、旧国鉄やJR北海道とは違って、日弁連・弁護士会は、「わざわざ自分から客単価を下げる」という愚行に出ているので、あまり同情されるわけもありません。

5 まとめ

ただ、旧国鉄・JR北海道と、日弁連・弁護士会には、大きな違いがあります。
まず、旧国鉄・JR北海道は、様々な法令や資本関係、政治によるしがらみによって、設備投資を拒むとか、赤字部門の切り捨てなどがたやすくありません。
また、運賃値上げも簡単にはいきません。
これに対し、日弁連・弁護士会は、誰に頼まれるわけでもないのに、自ら望んで、わざわざ、過剰な設備投資をし、赤字部門を抱え、さらには、自分たちの財布からお金を出して、望まれているかどうかもよくわからないのに、戦略もなくどんどんと地方に進出し、かつ、報酬を下げるようなマネをしてきました。

結果、国鉄は破綻し、JR北海道は現在再生のプロセスに入ろうとしています。
これに対し、日弁連・弁護士会は、未だ「公益」で思考停止しており、上記1~4については総括反省どころか、むしろ、もっとやれ、というムードです。

破綻企業の再生を試みるとき、まずやることは、「出血を止めること」です。
つまり上記1~3については大幅な見直しをしなくてはなりません。
しかし、それができる見通しがまったく立っていません。
4については、法テラスの力は強まる一方で、日弁連・弁護士会も、一部にはその動きや狙いに気づき反発される方もおられますが、組織としては、これに助力・協力しようという空気にいささかの変化もありません。きっと「余裕」なのでしょう。

経済的合理性なきことの積み重ね、それは「倒産」「破綻」です。
国鉄はそれで破綻し、JR北海道はそれでボロボロになっています。
日弁連・弁護士会も、その構造が上記1~4の通り酷似しており、ボロボロだと考えています。

根本的には、経済的合理性の問題に収斂されます。
日弁連・弁護士会は、「公益」(活動)について総括検討することが喫緊の課題だと思いますが、その考えは微塵も見られず、「弁護士」資格ごと殉じて、総倒れを狙っているのかなあ、なんて、遠い目で見ております。

さて、日弁連・弁護士会やJR北海道北海道は、10年後、生き残れているのでしょうか。
JR北海道は、冒頭でご紹介した記事のとおり、大胆な変革を進めようとしています。公共交通に対する考え方すら変化させかねない大胆な変革だと思います。
対する日弁連・弁護士会は、前述のように、誰に頼まれるわけでもない「公益」で思考ストップしており、変革どころか、漫然という表現がピタリとくる現状です。
JR北海道は、この大胆な変革で、それこそ、直営路線が、札幌周辺のみに集約されてしまうかもしれません。そうなると「JR北海道」じゃなくて「JR道央」になりますが、それぐらい変質する可能性があり得ます。
変革に着手したJR北海道ですらこうなのに、なにもしようとしない日弁連・弁護士会は、おそらく、自然に、それ相応の変質を余儀なくされると思います。ただ、自然な変質というのは、それによって生じるであろう軋轢のコントロールもできないまま、制御不能になって墜落、というリスクも秘めているので、その場合どうなるのだろうか、と思ってみています。

いずれも、ある意味、壮大な社会実験のような気もします。