弁護士の向原です。

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「父から継いだ工場が破産寸前。妻に打ち明けると「印鑑取ってくる」と席を立ち寝室に。離婚を覚悟したその時、目の前に一つの封筒を突き出された」

という表題のブログ記事を見ました。
今日は、このお話について、私が感じたことを書かせてていただきます。

まず、この記事の内容は、こういうものでした。
・月末に破産する会社の経営をしている社長さん
・銀行も消費者金融も、もうお金を貸してくれない
・社長は妻に「離婚を告げられるかもしれない」
・社長、妻に、破産の危機を伝える
・社長がそのことを伝えると、妻は・・・

弁護士をやっていると、会社を畳まねばならない局面に立ち会うことが少なくありません。
それまで汗水流して作り上げた会社を畳む気持ちは、関係者にしかわからないでしょう。私も、実家が自営業をしているので、その心中を思うと胸が痛むことが多いです。

しかし、私にとっては仕事ですから、徒に感傷にふけるわけにいかず、冷静に取るべき方策を考える必要があります。

そもそも、破産するというのは、ひとこと言えばどういうことなのか?

私の中では、

    外科手術

だと思っています。
私は、会社の債務整理のご相談を受けるとき、経営者の方に、残された資金(リソース)で債権の全額を弁済期に弁済できるかどうかを検討し、残された資金をどう使うことが、関係者各位のQuolity of Life(QOL)を極大化することにつながるか、という観点が肝心だと思っています。

QOL確保のためには、外科手術(破産)によるほかないこともあるし、再生(いわば投薬治療)を試みることもあります。
しかしながら、そこには、法律や時間、資金繰りといった制約があるので、それらを勘案して、QOL確保のためには外科手術しかないのであればそのように進言させていただきます。

もっとも、「破産」という言葉の響きとそこから推認されるイメージがあまりにも悪いために、「破産」のアドバイスをすると、当然、嫌がられます。
ですから、そのような場合、進言する私も、相当の強い覚悟をもって慎重に進言します。
そこでの説明で心がけているのは、やはり、他の方法(再生(投薬治療))などと比べ、関係者のQOLを最大化できる方法がこれ(破産(外科手術))である、ということをわかりやすく伝えることです。

 「関係者のQOLを極大化する」と書きましたが、誤解してはいけないのは、これは、財産隠しとかそういうことではありません。
 破産法の理念に則った、「被害を最小限にすること」(これはどんな破産法の基本書でも、一番最初のあたりに「破産法の目的」の一つとして載っているはず)を視野に入れた行動のことです)がそれに近いといえます。
 人体でいえば、外科手術すべき場面で、外科手術がいやだから「民間療法」に走る、というのはよくあります。気持ちはよくわかります。
 もちろん、そうした民間療法的な方法でも、「治療」がうまくいくこともあるようです。
 しかし、そこで、民間療法のようなものに傾倒しすぎると、大体ひどい目にあってしまう、というのが、自分の職業上の経験則として見てきたことでした。
 ここでも経営者が関係者のQOLをどう考えているか、が色濃く反映するように思います。

要は、経営者としては、財務状況と資金繰りをしっかり見極めて、資金ショートの可能性を早めに見極め、早めに相談をしていただくことが重要なのだろうということが重要です。

 そして、冒頭のお話に戻るのですが、このお話の最後は、奥さんがお金を出してくれる、というものです(それで会社が再建できるということなのでしょう)。
 しかし、現実に問題になるのは、こうしたお金がある場合、どう使うかということです。
 大切な「奥さんのお金」という虎の子、もったいない使い方をすることはご法度です。
 破産直前にもったいない使い方をしてしまったために、必要なこと、例えば、肝心の手続に必要なお金が確保できず、手続が進められないということが多々あります。そうなると、関係者に大きな迷惑が後々にかかることになるので、この「奥さんのお金」という虎の子をどう使うかについては、専門家と一緒になって知恵を出し合うことが重要だと思います。

 私は、そのような姿勢が、関係者のQOLに大きく関わってきて、その結果、その後の破産した方の経済的再起更生の可能性を少しでも高めるものと信じています。