1 はじめに

不同意性交等罪(既存の強制性交罪、強制わいせつ罪)(いわゆる強姦・強制わいせつ)の刑法改正案が、本日にも可決成立する見通しになります。
法文案はこちら↓
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21109058.htm

2 問題意識

この点、一番悩むのは、特にこれからそういう局面にいたる子供に
①どこからを罪になるおそれのある行為(として抑止すべき)伝えるべきか
②逆に、ここからは被害にあたる、ということを伝えるべきか

ところが、これについて実践的な解説は、ほとんどなされていません。
この法案に賛成推進する側からは「事例の蓄積によって決まってくる」という意見も見られるところであり、その「事例」にならないようにするためにどうするか、が重要だと思います。

すると、法文が実際に予定するよりも、①は広めに教える必要があるし(萎縮的)、②は的確に伝える必要があるし(広げすぎてもだめ、狭めすぎても「被害」が上がってこなくなるので注意が必要です(この問題意識すら、ここまでで出てきていない)。

3 今後とくにしてはいけないであろうこと(とくに男性)

論外なものは除いて、これから新たに罪にされかねない事例を想定し、それふまえて、これは(姦淫のみならず身体接触等)をしてはいけない、というのを簡単に私なりにまとめると
①については、
ア 酒を飲んだ人とはしない
イ 心身に障がいのある人とはしない
ウ 寝ている・うとうとしている人にはしない
エ 相手を誤信していた!といわれる可能性のある人にはしない
オ 仕事上の関係があるときに口説いたりしない
カ 終電はあるなどとウソを申し向けて終電をやり過ごさせて口説かない
キ 自分の誕生日より5年以上遅く生まれてかつ16歳未満の人とはしない
ク 知り合ったばかりの女性とはしない
ケ 付き合っているかどうか曖昧な女性とはしない
コ 避妊をすることを条件に性交に応じた(避妊しないなら応じない意思)のに、いざ本番になったらしなかった、性交中に避妊をやめた
・・・というところが想定されます。
「しない」とは、指一本触れない、という意味です。
広めかもしれませんが、安全策で考えています。

4 今後多発することが懸念されること

これらによって、これまで罪にできなかったものでも罪にできることになる反面で、今後、現実に多発するであろう、と予想しているかもなと思うものをいくつか挙げます。
(1)交際相手男性を親が気に入らず、あるいは女性と男性が仲違いし、女性が16歳未満の場合に、これを告訴するケース
(2)援助交際・パパ活などで(女性の年齢関係なく)酒を飲んでからいたして「同意がなかった」と言われて告訴されるケース
(3)年齢関係なく、交際歴浅い・あるいは交際しているかどうかがあいまいな男女が仲違いし、過去の性交(とくに酒を飲んでからの行為)を「同意がなかった」といわれて告訴されるケース
(4)二股などのケースで、当該相手がその交際相手に二股がバレて、「二股相手には無理やりされたの!」という弁解が出てきて、交際相手が怒ったとき

5 「加害者」にならないために

いずれにせよ、「同意」の存在をどのように証明するかが鍵です。「同意」の存在の証明責任が、被疑者・被告人側に移るからです。
これについては技術的に非常に難しいのですが、同意の有無について、前後のLINEメッセージや録画録音くらいしか、今のところ思いつきません(そのために、上記ク・ケはこれを具備し難いのでやめておくのが安全、ということです)。
それ以外にも、告訴に至るきっかけ・経緯も「同意」の判定に見られると思います。単なる痴話喧嘩の延長で告訴に至ることもあり得ると思います。それまでの交際歴や間柄などを証明し、「そういう間柄」であったことがわかる痕跡は残しておきたいところです。が、「そういう間柄」が立証できても「したくないときにムリヤリ性交された」と言われる危険は残ると思います(交際中でも、したくないときにするものではない、というものも処罰する趣旨であると読んでいます)。

なお、キは、「同意」がクリアできても、淫行条例に引っかかることが多いと思いますからこれも要注意。

ただ、不思議なのは、「独身と偽られ、相手が独身だと誤信して性交した。既婚者ならしなかった」「離婚すると言われ続けてそれを信じて関係を持った。でもいつまでも別れてくれない。騙されていたように思う」というケースの場合は、どの類型にも適合せず、罪にすることは、できないのではないかと見ています。個人的には、こういうケースのほうがよほどまずいのではないか、と思っているのですが。あるとすれば「予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕させた性交等」ですが、上記の状況を「恐怖・驚愕」と読み込んでいいのか、疑問があります(「恐怖・驚愕『等』とすればよいのでしょうが、処罰範囲がなおさらあいまいになるのでまずかったのでしょう)。

6 結語

この刑法改正には、私が知る限り、大阪弁護士会・埼玉弁護士会が、処罰範囲のあいまいな拡張を懸念し、慎重に検討すべき旨の声明が出されていました。
一法律家として法文を読んでいくと、性犯罪被害の撲滅という総論には当然賛成するものの、本改正法案は、実践的対応に落とし込んでいくと、あいまいで見えにくすぎるところが多く、社会生活の実情にマッチしなさすぎているように感じる面が多々あります。また、罪刑法定主義・刑法の自由保障機能をスポイルした上、(上記したが)立証責任を被疑者被告人側に転嫁する側面があるなどの問題点もあります。
推進論者のいう「事例の蓄積」によってこのあいまいさを埋めようとする態度は、人の人生や社会生活を愚弄・蹂躙するものであり、まことに不誠実であって気に入りません。

そうはいうものの、本日正式に法律として成立する見通しであることを考えると、在野の一法律家としては、実践的にどうすべきかを考える必要があると考え、とりあえず注意すべきところを、この記事にまとめました。

今後、「事例の集積」によって整理されてゆくと思いますが、現時点での簡単な想定は以上です。