川崎の中1殺害事件に関して、ネット上でその被疑者とする(これも真偽不明)人物の氏名や顔写真が拡散しているということを聞きます。

この点については、論点がいくつかあるように思います。
1 事実かどうかの確定がなされていないこと(被疑者かどうかわからないこと)
以下は仮に事実だとした場合の問題(非事実ならば論外)
2 事実だとして、少年法61条との関係で許されることか
3 少年法61条がなかったとしても、そもそも被疑者段階(無罪推定)での実名報道の是非(実名報道・実名を晒ことに意味はあるのか)

1など論外であり、これで晒すことに対してはそれなりの制裁がなくてはならないと思います(といっても、そういう場合に認められる慰謝料はとても安い)
2、3については、凄惨な犯罪被害との関係で「許されるにきまっとろう」という意見になりやすいですが、犯罪の凄惨さと、晒していいかどうかはそもそも別の論点であり、かつ、晒すことを是とするのであれば、それがいかなる目的でなされるかを考えて議論しないといけないと思います。が、実名報道をやめたスウェーデンでは犯罪が増えたという話は聞きません。逮捕段階で鬼の首を取ったように実名報道をする我が国では犯罪は普通に起きています。犯罪を犯す人にとって、実名が出るかどうかということは抑止にならない(特に凄惨な犯罪であればあるほど)と思われます。

また、実名を晒すことが被害者側にとって救済になるのか?
ネット上での実名晒しが事実上放任されている我が国で、被害者が経済的に救済されているという話は聞いたことがありません(直接加害者側に請求するにしても、やれ個人情報がどうたら、執行がどうたらで、被害弁償が実現しないことが殆どであり、例えば治療費などにしても保険治療を拒否されたりすることも未だにあるという=自腹、その後のケア(たとえば精神的な損失)も自腹、休業補償も取れず、慰謝料も取れないということは多いが、これは執行法制の問題が大きいといえる)

結局、何がしたいのか、何をするべきなのか、ということだと思います。

被害者の立場に立っていうならば、きちんとした経済的救済はマストであり、それを強化する法制が必要である。これはいうまでもないことです。
もっとも、これには予算が必要ですが、予算をつけるためには国会=我々国民の承認が必要ですが、そういうことをやる政党はありません(少なくとも今の自民党は無関心と思われます)。
こうした経済的救済という最低限のことすらできていないわけですが、次に来るのは、あとは被害者の被害感情の慰謝をどうするか。

それが、実名報道・実名晒しで行うことの是非ということになるけれども、これは被害者にとって様々といえますが、少なくとも、第三者が勝手にやることは論外といえるでしょう。

まして、被害者側を叩くようなことも横行しているわけですから、実名晒しをするような人たち(報道機関も含む)はアンコントローラブルなのであって、あるべき方向に進む制度的保障がない(そのような制度的保障を設けることは難しいであろう)ことからすると、実名晒しを容認することは困難なのではないかと思います。