第1 はじめに~この問題についての「小さな一歩」社と大本総合法律事務所の発表における不整合点

「小さな一歩」社が、下記URL(以下「本件URL」といいます)において、「これまでの経緯」を発表しました。
他方、大本総合法律事務所養育費担当チームが、下記画像のTwitter(以下「大本Twitter」といいます)を発表しています。
ところが、これらを見たものの、法的に見て一部整合しない点があります。→第3参照
これら両者の見解を前提にすると、両者から養育費義務者から、それぞれ、「当方が権利者だ(代理人だ)」ということで、二重に請求が来る可能性がきて、権利者も義務者も混乱する可能性がありえるのではないかと懸念されます。
そのため、特定の会社や法律事務所を名指しして書くことは本来あまりしたくないのですが、本件にかかる養育費請求の権利者・義務者双方の混乱をなるべく抑止するという公益的見地に立ち、両者の「公式発表」である本件URL及z大本Twitterから感得できる事実から、権利者・義務者の混乱を回避するべく、本稿の記載に至りました。

第2 結論~養育費義務者がするべきこと

「小さな一歩」と大本LOの双方から請求が来た場合、「債権者不確知」を理由に「供託」してください。
以下はゴタゴタと理屈を書いていますので、めんどくさい方は読まなくてかまいません。どっちかというと、上記結論をまず念頭に置いていただければかまいません。

 

第3 上記結論に至る理由~両者の主張の不整合から

1 ご覧いただくべきは、
本件URL内「大本総合法律事務所との協力関係の解消」というくだりと、下記大本Twitterです。

2 小さな一歩社と大本LOの関係は、本件URLと大本Twitterを合わせて読むと、以下のように理解されます。

①「書面化された養育費債権(以下(1)債権といいます)は、「小さな一歩」が求償」→この点は整合します。
②ところが「書面による取り決めのされていない養育費債権(以下(2)債権といいます)」について
本件URLでは「お客さまから取り決めの作成を依頼することとなりました。また、小さな一歩から保証後の求償権の回収についての業務を依頼することとなりました。」とあるのに対し、
・大本Twitterでは「2020年中に保証会社に申し込みされました、書面取り決めのないSP様は、大本総合にご依頼頂いておりますというステイタスとなっております。」「保証会社を通じた養育費の取り決めがないケースのシングルパートナー様の件については「全て」シングルパートナー様と大本総合とは委任契約が成立済みであります。」と記載されています。
3 つまり、本件URLと大本Twitterを比較してダイジェストすると、
①「小さな一歩」社としては、(2)債権は求償権として同社に帰属する(したがって、大本LOとの委任契約解消により同社に取立権限がある)との主張。
②対する大本LOとしては、(2)債権は、「小さな一歩」社から周旋を受けた同LOと直接契約した固有の顧客だから同LOに取立権限がある、との主張。
このように、主張が対立しています。
 
4 更に深堀りします。
上記URLの「大本総合法律事務所との関わり」のところには、こう書かれています。
「大本事務所には、小さな一歩にお申し込みされた上記(2)の取り決めのないお客さまを案内し、お客さまから取り決めの作成を依頼することとなりました。また、小さな一歩から【保証後の求償権の回収についての業務を依頼】することとなりました。
法律事務所にこのような委託を行った理由は、小さな一歩が株式会社であるため、【弁護士でなければ行えない業務は法律事務所に委託するしかないため】です。お客さまにもそのようにお伝えし、情報を共有させていただくことについてご同意をいただいておりました。」
(【】は筆者追加)
5 この【】をめぐって、「小さな一歩」社と大本LO間で、対立があるように思います。
が、これは、「小さな一歩」または大本LOのいずれかが、両者間の業務委託契約なりを出せばわかることだと思います(大本LOは守秘義務の関係で出せないでしょうが)。

 

第4 本件URLや大本Twitterから感得される、本件事業スキーム全体についての職務基本規程・弁護士法との緊張関係

1「小さな一歩」社の上記主張(2)債権は求償権として同社に帰属する(したがって、大本LOとの委任契約解消により同社に取立権限がある)からすると、(2)債権は、(1)債権に比べ、最初から係争性のある債権を含む可能性が高いので、それを敢えて取得する行為は、法73条との関係を十分に検討する必要が高いように思います(断定はしません)。※
そして、大本LOはそれに少なくとも協力していることになりますから、職務基本規程11条との関係を検討する必要が生じます。
2 他方で、大本LOの主張を前提にすると、2020年の(2)債権は「周旋を受け、依頼者と直接委任契約を結んで、依頼者固有の債権を依頼に基づいて請求している」ということになります。
どちらの主張が正しいのかは、繰り返しになりますが、両者の業務委託契約や、大本LOの依頼者との委任契約書を見ると参考になるのではないかと思います。
3 なお、注意しなければならないのは、(1)債権だから係争性がない、(2)債権だから係争性がある、と論理必然的にいうことはできないことに注意が必要です。

 

第5 結語と、本件スキーム全体を通しての当職の感想

義務者がこの場合に二重請求を甘受しなければならない法的ないわれはありませんので、供託という方法を取ることは、義務者としての正当な権利行使と言えると考えます。
結局は、本件スキームは、養育費義務者に上記の混乱を招来しかねないし、結果的に、本来迅速に供給さるべき養育費が、供託を介さざるをえなくなることで、このようなスキームの混乱により遅滞せしめられる結果になる可能性が発生した。このことについては、まことに遺憾に思います。

 

長くなったのでこの辺で締めたいと思います。
法的サービスに関連して様々なスキームを考案して実行することは素晴らしいと思います。
しかしながら、本件スキームが、弁護士法や職務基本規程といった、法や倫理規範に違反するかどうか、ここでは断定はしないものの、少なくとも、上記第4で述べたとおりの緊張関係を生じていることは否めない、という感想を抱いています。
本件スキームは、法や倫理規定の間隙を衝いたつもりなのかもしれませんが、結局、策を弄しすぎた結果、その間隙は間隙でないかもしれない状況になり、かつ、養育費権利者にとっても、そして義務者にとっても、アンハッピーな状況に陥ろうとしているように思います。その結果、職務遂行のうえで弁護士に求められる廉潔性を維持するために営々と守ってきた法や倫理規定の趣旨に悖る結果を招来しかねない状況に陥ったようにも感じました。
 長文お付き合いくださりありがとうございました。